茅葺きの宿 長治庵

きのもと七選

前回のブログあんたは生き生きしとるは思いのほか多くの方に読んでいただいたようで、うれしく思っています。きっと皆さんの心の中にもそれぞれの天狗おじいさんがいらっしゃるのでしょう。あのあと私にも天狗おじいさんの娘だの背後霊だのと名乗る方が現れ、驚いているところです(笑)。

 

天狗おじいさんもさることながら、写真だけ載せた「長治庵」というお宿、こちらが気になられた方もあったかもしれません。今回はそのお宿のことを書いてみようと思います。

 

私が好きな滋賀県湖北というのは木之本あたり、とてものどかな地域です。集落ごとに観音様が祀られ、今も地元の住民の皆さん自らの手によって大切に守られています。観音様はもとよりこうした土地柄に心惹かれ、たびたび足を運ぶようになりました。

 

好きなあまり、生活に溶け込んだ気分を味わってみたいとまで思うように。民話に出てきそうな茅葺屋根の宿「長治庵」さんのことを知ったときは、飛び上るほどうれしかったです。

 

レンタサイクルで木之本の観音様巡りをしたあと、駅前から一日数本しかないバスで一路、お宿へ。バス停の数から距離を推測していたのですが、山中ではバス停とバス停の間隔がべらぼうに長くなることを知りませんでした。時間はすでに夕方、バスの乗客はほとんどなし。不安になるくらい山中を分け入ったところで、人里らしい気配が…。

 

写真で見た通りの茅葺屋根の建物の前に立った時には、本当にほっとしました。かつては富山の薬売りの方が行商の途中に泊まられていたとか。往時が偲ばれる趣のあるお宿です。

 

冬には雪深い地域、桜の季節はまだ肌寒く、部屋にはこたつが置かれていました。もぐりこむと、なんだか田舎に帰ってきたような気分に。田舎のない私なのに不思議です。(ブログふるさと

 

夕食は母屋で。地元で採れた山菜、地元猟師さんが仕留められた鹿のお刺身、猪の鍋、熊のすき焼き…。締めはご主人自ら作られたコシヒカリのごはんがお櫃に入れられて。なんという贅沢、まさに地産地消です。珍しい食材も気取りなく調理されていて、それはそれは美味しかった…。しかも申し訳ないくらいリーズナブルなお値段です。

 

もてなしてくださる女将さんが控え目で、また素敵でした。

 

宿泊客は私ともう一組、衝立の向こうから聞こえてくる話し声から、関東から来られた熟年ご夫婦のようでした。ネットで検索して偶然見つけられたらしいご主人が「素晴らしい」を連発。ご満悦な様子がひしひしと伝わってきます。クールな反応の奥様に変わって、私は心の中で何度も相槌を打って差し上げました(笑)。

 

入浴後、廊下に並べられた雑誌の中に「きのもと七選」という冊子を見つけました。このあたりの歴史や風土、風習をまとめたもので、湖北好きの私には垂涎の一冊。部屋に持ち帰り、眠くなるまで読みふけりました。

 

翌朝、女将さんに販売されていないか尋ねると、なにかの記念に作られたもので販売はされていないとのことでした。

 

帰宅した翌日、大きな封筒が届きました。開けてみると、驚いたことに「きのもと七選」が。長治庵の女将さんがすぐに在庫を探してくださったのでしょう。たくさん残っていましたから、と手紙が添えられていました。うれしいやら、有り難いやら。忘れられないエピソードです。

 

今も本棚のすぐ手の届くところに置いています。店を始めてからは忙しく、木之本までも出かけられずにいますが、開くといつでも懐かしい思いが蘇ります。

 

美味しい料理の記憶には、温かいひと、温かいもてなしが必ず伴っているように思います。青森の佐藤初女さん(ブログ佐藤初女さんのこと2)、沖縄宮古島の千代さん(ブログ宮古島 農家民宿津嘉山荘)然り。

 

思えば素敵なお手本となる方たちに出会ってきたものです。私は、ここ京都で、寺町で、どんなことができるでしょう。そんなことを思っています。